時の飴玉

この物語は小学生とお話しながら作っていったお話が原作になっています。

この物語は小学生とお話しながら作っていったお話が原作になっています。主人公は小学生です。
「時の飴玉」というタイトルからどのようなお話を想像するでしょうか? 時の飴玉をなめるといったい何が起こるのでしょうか?

子どもも大人も楽しめるお話だと思います。
それでは短い物語をお楽しみに。

「時の飴玉」表紙絵

「時の飴玉(あめだま)」

友だちはたいてい、チョコとかガムをポケットにいれてる。でも、ぼくはフード派だ。

パーカー首のうしろのふわっとした部分に、お菓子をぽいぽい放り込むのがお気に入り。あるいてるときはユサユサしてる。ちょっと小腹がすいたら、手をうしろにすっとのばして、フードをまさぐる。それがいつものぼくのスタイル。

その日も、帰り道でフードをごそごそ。もう全部食べきったっけな?

「あ、まだあった」

指先が触れたのは、銀色の包み紙。ちっちゃい飴玉。記憶にないけど、お菓子ってのは基本一期一会だ。深く考えずに口に入れた瞬間――

ぶおぉーーん! 

おもいきり出たおなら。それに、かける 十倍!みたいな音がして目の前の景色がゆがんでいく。

「……え、なにここ?」

ぼくの目の前には、さっき通った道。今日はちょっと大通りをまがって、近道をとおってきたんだった。え?時間が、巻き戻った?これガチ?

しかもその道のかどに――
「あれって駄菓子屋さん?  あんなのさっきあったっけ?」

木の看板には、ざっくり筆で書かれたような文字。

『とき屋』

テレビで見た「昭和」のやつだ。昭和の香りがムンムンするその店から、おじさんがぬるっと登場。まんまるの顔にしろいヒゲと白い割烹着。リアルジャムおじさんかーい。

「おいしかったろ? その飴」
おじさんが話しかけてきた。

え、なんで知ってるの?」

「だって、ウチの飴だもん。これ、全部やるよ。袋の中にどっさりある」

「え、えっ?」

「いいんだよ、もう店じまいだし。坊やにあげる。好きに舐めな。ただし――」
おじさんの声が一瞬、低くなる。
「注意書き、ちゃんと読むんだぞ」

いらんけど…と言うタイミングをすっかりのがして飴を受け取ったら、またもや…

ぶおぉぉーーん

この音なんなのよ…って言い終わるよりまえに景色がまた変わってた。

で。問題はここから。

「……この飴、めっちゃうまくない?」

香りはグレープとコーラとソーダをまぜた感じ。味はちょい甘の中にキュッと酸味が効いてる。こりゃぁ、おかわり不可避よ。

ぼくは袋からわしづかみにして、ざざざっと口に入れた。

――ぶぶぶぶぉおぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!

景色が荒野に激変。砂、風、ゴツい岩。

「は?」

おいおい、これ、やばない?これどういうこと?
しかも…

グォオオオオオ!!!

どこぞの恐竜が、爆音かましてる。なにこれ。迫力しかないやつじゃん。これって、えーっと、あれってティラノサウルス…

ジュラシック・パークにでてたあれ。あれってリアルだったんだなー。…って感心してる場合じゃない!
ここからあいつのところまで100メートルくらいしかなさそう。
映画の100割増しの怖さだわ。

「……やばない???」

ぼくはようやく気づいた。これって、普通じゃない。これって一体…
「あ!」
袋の注意書き、ちゃんと読んでなかった。慌てて袋を開いて見ると――

「これは【時の飴】です。飴をなめると少しだけ昔に戻ることができます」 「ちゅうい:いっきになめると、とんでもなく昔に戻っちゃうよ!まじで気をつけて!」

いや、遅いし!言うの遅いし!3分遅いよ!…って、遅いのはぼくか。
読むの3分おそいよ、おい、ぼくよ! 遅いのよ。
注意書きには続きが書いてある。

「飴が全部とけたら戻れます。ただし、口の中でしかとけません」

そうかそうか。これ全部舐め終わったらもどれるのか。よし、よし。
喉からからだけど、いそいで舐めよう。って矢先に

グォオオオオオ!!!

「……えっ、うそ…。あの、ティラ夫、こっち向かってきてる!」

あわてて逃げる。ここは全速力だ。とおもった1秒後に、岩につまずいた〜〜〜
つまずいた拍子に、ぼろぼろっと口から飴を落ちた。地面に転がる飴たち。やばい、いま飴をおとしたら、もどれない…
ひろわなきゃな、、、

グォオオオオオ!!!

「って無理ぃ……」

恐竜のズシンズシンとあゆみよる。ぼくはガタガタふるえてる。絶体絶命。

でも――

ティラ夫が、なぜか止まった。

「……?」

でっかい鼻で地面をくんくん。そして、舌をべろーんと出して、地面をぺろりと舐めた。

その瞬間、恐竜が、…しゅんっ!…と消えた。

唖然。

「いったいなにがおこったの?」
まったく、わからないけど…いったん、助かったようだ。

ヘナヘナと、すわりこんで、途方に暮れるぼく…
ふぅ、これからどうしよう。
まだ戻るすべはあるんだろうか…
と言いかけた瞬間

しゅんっ!

またもやティラ夫が現れる。

「うぎゃああああああああああああ!!」

……と叫んだ瞬間。
景色が、また、元通りの街になっていた。
「現代!」

現代にもどってこれた…!

あ、わかった……あの恐竜、飴舐めて時空飛んでったんだ。飴が全部とけたから、戻ってきた。で、それと一緒に……僕も戻ってこれたんだ

――助かった。

まさか、ティラノに恩を感じる日が来るとはね。

それ以来、ぼくは何かを口に入れる前に、必ず注意書きを読むようになった。フードにお菓子を入れる癖は相変わらずだけど、たまにすごく丁寧に飴の裏を確認してる姿が目撃されるようになりましたとさ。

(おしまい)

お話はここまで

感想があれば是非おしえてくださいね。